線状降水帯や短時間強雨による浸水被害が、毎年のように全国で発生しています。「ハザードマップで色が塗られている土地だけど、家を建てて大丈夫だろうか」——そう悩む方は少なくないはずです。
木造住宅で本格的な耐水害仕様を用意しているハウスメーカーは、実はごくわずかです。2020年に業界に先駆けて発売した一条工務店に続き、2026年6月にはヤマト住建が独自の耐水害住宅仕様の販売を開始しました。この記事では両社の耐水害住宅を機能・費用の両面から比較します。
✅ この記事の結論
一条工務店とヤマト住建はどちらも木造住宅で耐水害仕様を提供していますが、機能面で大きな違いがあります。一条工務店は地盤面から最大約5mの浸水に対応する「浮上タイプ」を持つ一方、ヤマト住建は坪+8,000円という低コストで地盤面から1mまでの浸水に対応します。浸水リスクの深さと予算に応じて選び分けるのがポイントです。
この記事の内容
耐水害住宅が注目される背景

近年、線状降水帯の発生や短時間強雨による浸水被害が全国で増加しています。特に都市部では、下水道の排水能力を超える降雨によって床下浸水・床上浸水が発生するケースが増えています。
一般財団法人日本建築防災協会が2021年に公表した資料によると、直近20年間で発生した被災家屋は約81万棟(年間平均約4万棟)にのぼり、そのうち約9割が床上100cm未満の浸水でした。ヤマト住建が耐水害仕様の対象水位を「地盤面から1mまで」に設定しているのも、この数字が根拠になっています。
こうした背景から、ハウスメーカー各社も「水害に強い家」の開発に力を入れています。一条工務店は2020年に業界に先駆けて耐水害住宅を発売し、2026年6月にはヤマト住建も独自の耐水害住宅仕様の販売を開始しました。
我が家はハザードマップで浸水エリアに該当しなかったため耐水害仕様は見送りましたが、8社を比較検討した施主として、両社の耐水害住宅を機能面で徹底比較します。
機能比較表:一条工務店 vs ヤマト住建
| 比較項目 | 一条工務店 | ヤマト住建 |
|---|---|---|
| 発売時期 | 2020年 | 2026年6月 |
| タイプ | スタンダード + 浮上 | スタンダードのみ |
| 対応水位(地盤面から) | 約1.0m | 最大1.0m |
| 対応水位(浮上タイプ) | 最大約5m | ─(設定なし) |
| 構法 | 2×6枠組壁工法 | 木造軸組(真壁パネル工法) |
| 基礎・外壁の止水 | ○ | ○ |
| 玄関ドアの止水 | ○ | ○ |
| 窓の止水 | ○ | ○ |
| 下水逆流対策 | ○ | ○ |
| 外部設備の嵩上げ | ○(独自架台で基礎取付) | ○(1m以上に設置) |
| 浮力対策 | 床下注水ダクトで基礎内に注水(スタンダード) ポール固定で浮上(浮上タイプ) | ─(1mまでの対応のため) |
| 対応商品 | 2×6工法の一部商品 (グランスマート・アイスマート・アイキューブ) | ほぼ全商品 |
| 実大実験 | 防災科学技術研究所で実施 (約3,000トンの水を使用) | 計4回の止水実験を実施 |
| 受賞歴 | ジャパン・レジリエンス・アワード2021 準グランプリ金賞 気候変動アクション環境大臣表彰 | ─ |
| 費用(坪単価加算) | スタンダード:+約8,800〜15,000円 浮上:+約20,000〜30,000円 | +約8,000円 (2026年8月末までのキャンペーン価格) |
📝 数値の出典について
ヤマト住建の仕様・価格は同社プレスリリースおよび住宅産業新聞(2026年6月16日付)に基づきます。一条工務店の対応水位・坪単価は公式サイトに数値の公表がないため、施主・販売店による公開情報をもとにした目安です。いずれも2026年7月時点の情報であり、時期やキャンペーンにより変動します。実際の採用可否と金額は必ず各社の営業担当にご確認ください。
比較ポイントを詳しく解説
最大の違い:「浮上タイプ」の有無

両社のもっとも大きな違いは、一条工務店が「浮上タイプ」を用意している点です。
浮上タイプは、水位が上昇すると建物自体が基礎から浮き上がり、4本のポールに沿って上昇する仕組みです。基礎構造を二重にし、家の四隅に設置したポールとダンパー付きの係留装置で建物をつなぐことで、洪水時も建物が流されず、水が引いた際にはほぼ同じ位置に着地します。地盤面から最大約5mの浸水にも対応でき、ハザードマップで浸水深3m以上と指定されているエリアでも採用できます。この技術は一条工務店独自のもので、ヤマト住建には同等の仕組みはありません。
一方で浮上タイプは費用も高く(坪+約20,000〜30,000円)、電気の引き込みに専用ポールが必要になるなど制約もあります。浸水深が1m未満のエリアであれば、スタンダードタイプで十分な対策が可能です。
「あえて床下に水を入れる」一条工務店のスタンダードタイプ
耐水害住宅の開発でもっとも難しいのが、実は浮力への対策です。浸水を止めて水密性を高めるほど、住宅は船のように浮き上がってしまいます。
一条工務店のスタンダードタイプは、この問題に対して発想を逆転させました。建物が浮上する危険がある水位に達すると、床下注水ダクトから床下へあえて水を引き込み、その重さで浮力に対抗するという仕組みです。水を防ぐ家が、水を重しとして利用する。この構造によって、地盤面から約1mまでの浸水であれば床上浸水を食い止められるとされています。
💬 だから「1m」が境界線になる
水深が1mを超えると、床上浸水させずに浮力へ抗うことが構造的に難しくなります。一条工務店が浮上タイプを開発したのも、ヤマト住建が対象を1mまでと定めたのも、根っこにあるのは同じ「浮力の壁」です。
スタンダードタイプの対策内容はほぼ同等
スタンダードタイプ同士で比較すると、対策内容はかなり似通っています。基礎・外壁の止水、玄関ドア・窓からの浸水防止、下水逆流対策、外部設備の嵩上げという4つの柱は共通です。
ただし、実現方法に違いがあります。一条工務店は2×6枠組壁工法の高い気密性を活かした止水を行い、ヤマト住建は真壁パネル工法と気密テープ・コーキングによる独自の止水技術を採用しています。ヤマト住建が2025年度に建築した住宅1,229棟の平均C値は0.29と非常に高く、この気密性能の高さが耐水害仕様の実現を容易にしたと同社は説明しています。
対応商品の幅

一条工務店の耐水害住宅は2×6工法の商品(グランスマート・アイスマート・アイキューブ)で採用可能ですが、木造軸組工法のグランセゾンなどは対象外です。また、2倍耐震の同時採用が前提とされているため、その分の耐震オプション費用が別途加算されます。窓や玄関ドアの選択肢にも制限が生じるため、仕様変更による追加費用が発生する場合もあります。
ヤマト住建はほぼ全商品にオプションとして付加可能で、2倍耐震のような前提条件もありません。商品選びの自由度という点ではヤマト住建に優位性があります。
なお、一条工務店には標準仕様の範囲やオプションの組み合わせに独自のルールがあります。詳しくはこちらで解説しています。
👉 一条工務店の標準仕様でできること・できないこと(一条ルール)
開発の背景と実験体制
一条工務店は国立研究開発法人防災科学技術研究所の大型降雨実験施設で、約3,000トンの水を使った実大実験を繰り返し行っています。世界最大級の施設で豪雨・洪水を再現し、一般的な仕様の住宅との比較実験も実施。一般住宅が床下換気口や玄関ドア、窓の隙間から次々と浸水したのに対し、耐水害住宅は床下・室内ともに被害を受けなかったと公表されています。
この取り組みは外部からも評価されており、ジャパン・レジリエンス・アワード2021で準グランプリ金賞(企業・産業部門)を受賞。さらに、防災科学技術研究所との共同開発が環境省「気候変動アクション環境大臣表彰」の初代受賞者(開発・製品化部門/適応分野)に選定されています。
一方のヤマト住建は、2023年12月から2024年7月にかけて早稲田大学を中心とする産学協同の「耐水害住宅研究会」に参加し、気密テープとコーキングによる止水技術や止水試験の手法といった知見を得ました。ただし研究会が想定していたのは一般的な木造軸組工法で、同社の真壁パネル工法とは前提が異なるうえ、2次・3次防水を重ねる仕様はコストと施工工数の増加が課題でした。
そこで2024年4月から独自開発に着手。エービーシー商会・三協立山・エクセルシャノン・日本住環境といった建材メーカーの協力を得て、約2年の共同研究と計4回の止水実験を経て実用化しました。2026年6月5日には兵庫県加古川市の「住まいのギャラリー加古川店」で公開実験も実施しています。後発ならではのコスト最適化が図られている点が特徴です。
費用比較
延床面積30坪の住宅を想定した場合の、耐水害仕様の追加費用は以下のとおりです。
| タイプ | 一条工務店 | ヤマト住建 |
|---|---|---|
| 坪単価の加算額 | +約8,800〜15,000円 | +約8,000円 (キャンペーン価格) |
| スタンダード(30坪) | 約26〜45万円 | 約24万円 |
| 浮上タイプ(30坪) | 約60〜90万円 | ─ |
💡 ヤマト住建の+8,000円は期間限定価格の可能性あり
ヤマト住建の坪+8,000円は、販売開始から2026年8月末日までのキャンペーン価格として案内されているものです(住宅産業新聞 2026年6月16日付)。9月以降の価格は公表されていないため、検討中の方は早めに確認しておくと安心です。
なお一条工務店側も、過去にキャンペーン価格として坪単価が案内されていた時期があります。両社とも「今の金額がずっと続く前提では考えない」ことが大切です。
📝 一条工務店で見落としがちな追加費用
一条工務店の耐水害住宅は2倍耐震の同時採用が前提とされているため、耐震オプション費用も別途加算されます。また、採用できる窓の種類や玄関ドアに制限が生じるため、仕様変更にともなう追加費用が発生する場合もあります。表の金額はあくまで耐水害仕様そのものの加算分とお考えください。
どちらを選ぶべきか
一条工務店の耐水害住宅が向いている人
ハザードマップで浸水深が1mを超えるエリアに建築予定の方には、一条工務店の浮上タイプが事実上唯一の選択肢です。地盤面から最大約5mの浸水に対応できる木造住宅は、現時点で一条工務店でしか建てられません。実際、浸水深3m想定の土地で浮上タイプを選んだ施主も公開情報で確認できます。防災科学技術研究所での実大実験を2020年から重ねてきた実績の長さも安心材料です。
ヤマト住建の耐水害住宅が向いている人
浸水深が1m未満のエリアで、コストを抑えて水害対策を導入したい方にはヤマト住建が有力です。坪+8,000円という低コストに加え、2倍耐震のような前提条件がないため、純粋なオプション費用のみで導入できます。ほぼ全商品に対応しているので、住宅の選択肢を狭めずに耐水害仕様を追加できる点も魅力です。ただし前述のとおり、この価格は2026年8月末までの案内である点にご注意ください。
浸水エリア外なら見送りも合理的
我が家の場合、ハザードマップで浸水エリアに該当しなかったため、耐水害仕様は採用しませんでした。実際にここ200年以内で一度も浸水したことがないエリアですし、明治改修が功をなしたのか昭和三大洪水でも氾濫しませんでした。治水耐水害仕様は「保険」としての性格が強いオプションですので、立地のリスクと費用のバランスで判断するのが合理的です。まずはお住まいの自治体が公開しているハザードマップ(洪水・内水の両方)を確認することをおすすめします。
一条工務店の耐水害住宅については、別記事で仕組み・費用・2倍耐震まで詳しく解説しています。
👉 一条工務店の耐水害住宅|仕組み・費用・2倍耐震を徹底解説
まとめ
一条工務店とヤマト住建の耐水害住宅を比較しました。要点を整理します。
| ポイント | 一条工務店 | ヤマト住建 |
|---|---|---|
| 最大の強み | 浮上タイプで地盤面から最大約5m対応 | 坪+8,000円の低コスト |
| 最大の弱み | 前提条件あり・対応商品が限定的 | 1m超の浸水には非対応 |
| おすすめケース | 浸水深1m超のエリア | 浸水深1m未満でコスト重視 |
どちらの住宅も「水害が起きても住み続けられる家」を目指して開発されており、被災家屋の約9割をカバーする「地盤面から1mまでの浸水対策」はスタンダードタイプとして両社に共通しています。浸水リスクが高いエリアに建築予定の方は、ぜひ両社の耐水害仕様を検討してみてください。
🏡 後悔しない家づくりのために
耐水害住宅を検討する際も、まずは複数社から間取り・見積もりを取って比較することが大切です。同じ条件で提案を受けることで、各社の強みや費用感が明確になります。我が家も8社を比較したことで、自分たちが何を優先したいのかがはっきりしました。

